研究内容紹介
半導体に適当な波長のレーザー光を照射すると自由に動くことのできる伝導電子と、価電子の抜け殻、"正孔"が生成されます。
この電子と正孔はクーロン引力によって束縛しあい、固体の中に水素原子と同様の素励起(粒子)、励起子(エキシトン)を形成します。
比較的低密度、低温領域では光励起された電子と正孔は全て励起子を形成していますが、励起子は電荷中性な粒子なので系は絶縁体とみなせます。
電子正孔対の密度を増やしていくと、クーロン力の遮蔽効果が生じて励起子は不安定になり、やがては自由な電子と正孔に乖離してしまいます。
この状態は電子正孔プラズマ状態と呼ばれ、系は金属的な振る舞いにかわります。
この電子正孔系における絶縁体金属転移現象は、励起子モット転移と呼ばれます。
当研究室ではこの励起子モット転移とそのダイナミクスを超高速レーザー分光法を用いて詳しく調べてきました[Ref.1,2]。
その結果、励起子モット転移は高温では連続的なクロスオーバー[Ref.3,4]、低温では1次相転移的な振る舞いを示すこと[Ref.5]を明らかにしました。
さらに極低温では、モット密度の高密度側の金属相でも電子正孔の対相関が残っていることがわかりました[Ref.6]。
これは、以下に述べる電子正孔クーパー対の前兆現象であることを示唆しています。
励起子は電子と正孔からなる複合粒子で、整数のスピンを持ち、近似的にボース粒子とみなせるので、極低温でボース-アインシュタイン凝縮することが理論的に予測されています。 一方、励起子モット転移の密度以上では励起子は安定には存在できなくなりますが、やはり多体のクーロン引力の効果によって、電子と正孔が対凝縮することが予測されています。 単純化された状況では、後者の状態を記述する方程式は数学的には超伝導のBCS状態の方程式と同等になることから、これは電子正孔BCS状態と呼ばれます。 極低温で理論的に予測されている励起子ボース-アインシュタイン凝縮や電子正孔BCS状態、それらの間のクロスオーバー現象や光との相互作用に興味を持ち、それら量子凝縮状態の実現を目指して研究を進めています。