研究内容紹介
量子ホール効果の発見に端を発して、トポロジカル相と呼ばれる新しい物質相の概念が発展してきました。
ここでの相を定義する量は、超伝導や磁性などのように対称性の自発的破れを伴って発現する相を特徴づける秩序変数ではなく、トポロジカル数と呼ばれる量になります。
例えば、強磁場下での二次元電子系で現れる整数量子ホール効果は、ホール伝導度$\sigma_{xy}$が量子化コンダクタンス$e^2/h$を単位として整数の値をとる現象ですが、この整数値はチャーン数と呼ばれるトロポジカル数に対応しています。炭素原子が蜂の巣格子状に結合した原子一層からなる物質、グラフェンも二次元電子系とみなせますが、グラフェン中の電子は低エネルギーでは運動エネルギーが運動量(結晶運動量)に比例していて、質量ゼロのディラック粒子のように振る舞います。
この場合は、ディラック点(線形分散を持つバンドの交差点)の存在による量子異常があって、量子ホール状態でのホール伝導度$\sigma_{xy}$は$e^2/h$の半整数倍になります。
このようなトポロジカル相やトポロジカルな位相の効果の光学的性質に興味を持って研究をしています。
例えば、整数量子ホール効果で実験的に観測されるホール伝導度$\sigma_{xy}$の量子化が光でも見えるかどうかについて研究しました。
ホール効果に対応する光学現象は、透過光なら磁気光学ファラデー効果、反射光なら磁気光学カー効果に相当します。ファラデー(カー)効果とは、物性を磁場中、あるいは磁化を持つ結晶に直線偏光の光が入射したときに、透過光(反射光)の偏光面が回転する現象です。
回転角の大きさはホール伝導度$\sigma_{xy}$に比例しているため、光学ホール効果とみなすことができます。
逆にファラデー回転角の周波数依存性を測定することで交流ホール伝導度$\sigma_{xy}(\omega)$を決定することができます[Ref.1]。
そこで、整数量子ホール状態にある強磁場下二次元電子系のファラデー効果を観測してみると、ファラデー回転角が磁場の関数として量子化していること(量子ファラデー効果)がわかり、これを光学量子ホール効果と名付けました[Ref.2]。
同様の実験を、ディラック電子系である単層グラフェンに対して行ってみると、より明瞭に量子ファラデー効果が観測され、量子カー効果も観測されました。
さらに、回転角の値はディラック点の存在を反映して、確かに半整数のトポロジカル数を反映することもわかりました[Ref.3]。